大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和44年(行ウ)87号 判決 1976年1月28日

大阪市東成区神路二丁目八番三三号

原告

株式会社 下村

右代表者代表取締役

下村治郎一

右訴訟代理人弁護士

久保泉

大阪市東成区東小橋北之町一丁目

被告

東成税務署長

倉野行夫

右指定代理人大蔵事務官

筒井英夫

岡崎成胤

丸明義

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

稲葉修

右両名指定代理人検事

細井淳久

法務事務官 国見清太

右当事者間の更正処分取消等請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

1  被告東成税務署長が昭和四一年一〇月三一日付でなした原告の昭和三九年一月一日より同年一二月三一日までの事業年度の法人税の所得金額を二九二九万三五三二円とする更正処分のうち、二三三六万三二八四円を超える部分および過少申告加算税二四万四九〇〇円の賦課処分のうち、右所得金額二三三六万三二八四円を超える部分に対応する部分は、いずれも取消す。

2  原告の被告東成税務署長に対するその余の請求を棄却する。

3  原告の被告国に対する訴えを却下する。

4  訴訟費用は、原告と被告東成税務署長との間においてはこれを五分しその二を原告の、その余を被告東成税務署長の各負担とし、原告と被告国との間においては全部原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告東成税務署長が昭和四一年一〇月三一日付でなした原告の昭和三九年一月一日より同年一二月三一日までの事業年度の法人税の所得金額を二九二九万三五三二円とする更正処分のうち、一八二〇万八七〇一円を超える部分および過少申告加算税二四万四九〇〇円の賦課処分のうち、右所得金額一八二〇万八七〇一円を超える部分に対応する部分は、いずれも取消す。

2  被告国は原告に対し、四七四万八一七〇円およびこれに対する昭和四一年一二月一日から支払済みに至るまで日歩二銭の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告東成税務署長

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  被告国

1  本件訴えを却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は被告東成税務署長(以下被告署長という。)に対し、昭和三九年一月一日より同年一二月三一日までの事業年度(以下本件事業年度という。)の所得金額を一六三八万九三〇二円として法人税の確定申告をしたところ、被告署長は昭和四一年一〇月三一日付で右金額を二九二九万三五三二円とする更正処分および過少申告加算税二四万四九〇〇円の賦課処分(以下本件処分という。)を行ない、同年一一月四日原告に通知した。

2  原告は本件処分のうち、借地権価額一一〇八万四八三一円を所得金額に計上すべきであるとする部分を不服として、昭和四一年一一月二二日訴外大阪国税局長に対して審査請求をしたが、同局長は昭和四四年七月二日右請求を棄却する裁決をし、原告は同月一九日その裁決書謄本の送達を受けた。

3  しかしながら、原告が右金額を本件事業年度の益金に計上しなかったことには相当な理由があり、被告署長の本件処分は右の点に関するかぎり違法である。

4  ところで、原告は本件処分の後である昭和四一年一一月三〇日、財産の差押を免れるため、被告国に対し法人税本税等計五八一万二七〇〇円を納税したが、同年一二月一三日、延滞税のうち二一万三七九〇円(還付加算金四二〇円を含む)の還付を受けた。

5  原告の被告署長に対する請求が認容されることにより、原告は被告国に対し、過納金四七四万八一七〇円とこれにつき納付の翌日たる昭和四一年一二月一日から支払済みに至るまで昭和四五年法律一三号による改正前の国税通則法五八条により還付加算金として日歩二銭の割合による金員の還付を請求することができることとなる。

而して、原告の究極の目的は過納金の還付を受けるにあり、更正処分等の取消しはその前提をなすにすぎないし、また被告署長に対する請求認容の判決は当然に被告国を拘束するものではなく、両請求は性質を異にし、両立しうるものであるから、還付を求める部分の訴えについても、その利益、必要がある。

6  よって、原告は被告らに対し、請求の趣旨記載の如き判決を求める。

二  被告国の本案前の主張

原告が請求の趣旨第2項で還付を求める金員は、原告の請求の趣旨第1項の請求が認められれば当然に還付されるものであり、その請求を現在予めする必要は認められないから、不適法である。

三  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因第1項、第2項、第4項の事実は認める。

2  請求原因第3項の事実は否認する。

四  被告らの主張

1  原告は被告署長に対し、本件事業年度の所得金額を一六三八万九三〇二円として確定申告をしたが、その内容について次のとおり加算、減算すべきものがあったので、被告署長は本決処分をした。

(一) 所得金額に加算すべき金額 一二九七万〇二八〇円

(1) 一般管理費中損金否認分 三〇万〇八〇六円

(2) 販売奨励金収入計上もれ 一八万六二四三円

(3) 仮受金中債務否認分 八八万 円

(4) 借地権価額の収益計上もれ 一一〇八万四八三一円

(5) 前期加算金額減算誤り 五一万八四〇〇円

(二) 所得金額より減算すべき金額 六万六〇五〇円

(1) 未納事業税計上もれ 五万一九三〇円

(2) 鋼材クラブ入会金計上もれ 五〇〇〇円

(3) 市町村民税の加算誤り 九一二〇円

2  右(一)(4)認定の理由は次のとおりである。

(一) 原告は、昭和三九年三月一七日当時、株主の一人である訴外木下産商株式会社の有する株式の金額の合計額(四〇〇〇万円)が、原告の株式金額(八〇〇〇万円)の一〇〇分の五〇に相当する会社であった。

(二) 原告は、昭和三九年三月一七日当時、訴外下村治郎一(以下訴外下村という。)に対し、同訴外人所有の別紙物件目録(一)ないし(五)記載の土地(以下本件土地という。)合計三〇三・三五坪(一〇〇二・八一平方メートル)のうち、一一〇・二五坪(三六四・四六平方メートル、以下本件借地という。)につき、同目録(六)記載の建物(以下本件建物という。)の所有を目的とする借地権(以下本件借地権という。)を有していた。

訴外下村は、昭和三八年一月一六日付で訴外内外衣料製品株式会社(以下内外衣料という。)に対し、本件土地を代金八八〇〇万円で売渡す旨の契約を結び(所有権移転時期は昭和三九年三月一七日)、原告は昭和三九年三月一七日付で内外衣料に対し、本件建物を代金四〇〇万円で売渡す旨の契約を結んだ(所有権移転時期は同日)。

(三) 原告は右建物の売渡しと同時に内外衣料に対し本件借地権を譲渡した。

仮にそうでないとしても、原告は昭和三九年三月一七日ころ、訴外下村に対し、本件借地権を返還又は放棄した。

(四) ところで、

(1) 昭和三九年三月一七日当時、一般に借地権に経済的価値、価額の認められる地域においては、借地権者が借地所有者以外の第三者に借地上の建物を売渡した場合に、当該借地権も同時は右第三者に移転し、借地権者が右第三者から建物自体の価額を超えて借地権の価額に相当する金額を収受しうることは一般的であった。

(2) また、当時右地域においては、借地権者が借地所有者に対して借地権を返還又は放棄した場合に、借地権者が借地所有者から借地権の価額に相当する金額を収受しうることも一般的であった。

(3) さらに、当時右地域においては、借地所有者と借地権者とが当該土地と同地上建物を同時にまたは同一機会に一括して第三者に売渡した場合に、借地権者が借地所有者又は右第三者から借地権の価額に相当する金額を収受しうることも一般的であった。

(五) 本件借地は当時一般に借地権に経済的価値、価額の認められる地域に存し、その借地権の価額は当時本件借地の更地としての価額の五〇パーセントを上まわっていた。

(六) 右当時において、いわゆる「路線価方式」(昭和三九年四月二九日直資五六直審(資)一七相続税財産評価に関する基本通達)によれば、本件土地(合計三〇三・三五坪)のうち、本件借地(一一〇・二五坪)の更地としての時価は一八六六万四二二二円(坪当り一六万九二九〇円)であり、その余の土地(一九三・一〇坪)の更地としての時価は三七六〇万六二二五円(坪当り一九万四七五〇円)であった。

(七) 内外衣料は前記(二)の各契約に基き、訴外下村および原告に対して合計九二〇〇万円を支払ったことにより、本件土地を更地として用益処分することが可能となった。従って、本件土地の更地としての売買代金に相当する金額は九二〇〇万円であった。

そして、本件土地中の本件借地の更地としての売買代金に相当する金額は、右九二〇〇万円中の三〇五一万五二七九円(九二〇〇万円を前記(六)の各金額に本件借地と、その余の部分に按分比例したもの)であり、本件借地の借地権の価額に相当する金額は右三〇五一万五二七九円の五〇パーセント以上、即ち一五二五万七六三九円以上であった。

(八) 然るに、原告は内外衣料から約四〇〇万円を収受したのみである(右収益およびこれに対応する経費は、本件事業年度の所得の計算上、総益金および総損金に計上されている)。

(九) 一般に、株式会社は専ら営利を目的とするものであるから、原告以外の他の株式会社ならば、右(七)と(八)の各金額の差額一一二五万七六三九円を収受したはずであり、これによって相応の法人税を負担することになるわけである。

(一〇) 従って原告について右一一二五万七六三九円を収受しないことが容認された場合には、原告の法人税の負担を不当に減少させる結果となるから、右金額は原告の本件事業年度の収益として益金に算入されるべきである。

(一一) なお原処分においては、本件土地の価額の計算過程に誤りがあり、本件借地権価額の計上もれに一一一〇八万四八三一円」となったが、これを正しく計算すれば、右のとおり一一二五万七六三九円であって、原処分の金額を上まわる。

以上のところにより、原処分は適法である。

五  被告らの主張に対する認否

1  被告らの主張第1項のうち(一)(4)を除くその余の事実および第2項(一)(二)の事実は認める。第2項(二)記載の各物件を原告および訴外下村が内外衣料に売却した経緯は次のとおりである。

(一) 原告は昭和二四年設立以来着実に営業規模を拡大し、従業員の数も増えたうえ取扱品目の種類および数量も著しく増加した。そのため、昭和三八年当時本件建物(倉庫)および原告が訴外下村から賃借していた本件土地上の事務所、倉庫では手狭になった。しかも、当時、右土地附近は交通が輻輳し、かつ一方通行の交通規制が強化されたため、商品の迅速な運送が困難となり、営業に著しい支障をきたした。

(二) そこで原告は事務所、倉庫を、ともに他へ移転する計画をたてたが、代替地および代替建物の取得費用を原告が負担することにすると、巨額の資金が固定し、運転資金に不足を生じることとなるため、訴外下村が本件土地を他へ売却し、その代金をもって訴外下村が事務所、倉庫を建築し、これを原告に賃貸することにした。

(三) 訴外下村が本件土地を有利な条件で売却するためには、原告が所有する本件建物を取こわして本件借地を明渡さねばならないが、原告はこれを取こわす代わりに、本件土地の買主である内外衣料に四〇〇万円で売渡すことになった。

(四) なお、訴外下村は右売却代金の一部で別紙物件目録(七)記載の建物を建築し、原告はこれを昭和三九年五月三一日同訴外人から次の約定のもとに賃借した。

権利金、保証金、敷金 なし

賃料 一ケ月四〇万円

期間 二〇万年

2  被告らの主張第2項(三)ないし(二)一については、(八)は認めるが、本件借地が借地権に経済的価値の認められる地域にあること、そのような地域において被告ら主張の各場合に借地権相当価額の金銭を受取る慣行のあることおよび本件借地権の価額が更地価額の五〇パーセント以上であることは、いずれも否認する。

借地権の譲渡、返還は、今日においてもその客観的な市場価格が形成されるほど自由に数多くなされているとはいい難く、個々の取引にかなり特殊性のみられるものである。従って、借地権の価値といっても、一律に決定しうるものではなく、具体的な個々の事情に即して、たとえば借地権設定時の条件、立退きの事情地主からの新物件提供の有無等を総合勘案して算定しなければならない。

本件において、次の諸事情を勘案すれば、原告が借地権相当価額を収受しなかったことにつき、合理的な理由があるといえる。

(1) 本件借地の賃貸借条件が原告にとって極めて有利であった。

即ち、原告は訴外下村から本件借地を賃借するにつき、権利金、保証金、敷金等一切払っていないうえ、賃料も極めて低額であった。

(2) 本件借地を訴外下村に返還するに至ったのは、専ら原告側の事情に基づくものであった。

(3) 原告が本件借地を返還したのは、訴外下村が原告に賃貸していた土地を売却し、その代金で別の土地、建物を用意し、それを原告に賃貸するためで、通常の明渡しの場合と全く事情が違う。

(4) 訴外下村が新たに原告に提供した物件の賃貸借条件が原告にとって極めて有利で、訴外下村はそれだけ犠牲を払っている。即ち、新賃貸借に際し、原告は権利金、保証金、敷金等一切払っていないうえ、賃料も低額である。

(5) 本件建物は原告が訴外下村から賃借していた本件土地上の事務所、倉庫に附属するものであって、後者の賃貸借が消滅すれば、前者の敷地についての賃貸借も消滅する関係にあり、本件借地権は独立性に欠ける。

(6) 訴外下村は、原告が訴外三井物産株式会社との間の商取引により同訴外会社に対して負担する債務を担保するため、訴外下村が所有する別紙物件目録(七)記載の建物につき、同訴外会社に対し債権元本極度額一億五〇〇〇万円の根抵当権を設定している。

3  借地人の借地権が現実に利益化したとして課税されるのは、地主と借地人の間に不動産の利用関係が終局的に存在しなくなった場合でなければならない。そうでないと、租税特別措置法の認める不動産の買換え制度と較べて著しく権衡を失するし、また二重課税(本件建物を退去することにつき借地権相当額を受取るべきだとして課税したうえ、その代償として提供された現在の建物から将来退去する際にも、再び立退料について課税することが可能であり、しかもその際本件課税の対象となる所得を差引かない。)となる。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第三号証、第四号証の一、二、第五号証、第六号証の一ないし三、第七ないし第九号証

2  原告代表者、鑑定

3  乙号各証の成立は全部認める。

二  被告

1  乙第一ないし第五号証、第六号証の一ないし六

2  証人木口勝彦

3  甲号各証の成立は全部認める。

理由

(被告署長に対する請求について)

一  請求原因第1項、第2項の事実は、当事者間に争いがない。

二  被告署長は、原告の本件事業年度法人税の確定申告の所得金額について、被告らの主張第1項記載のとおり加算、減算すべきものがあると主張するところ、そのうち(一)(1)ないし(3)、(5)、(二)(1)ないし(3)については、当事者間に争いがない。

そこで、以下、原告の右確定申告中に、被告らの主張第1項(一)(4)記載の借地権の価額に相当する益金の計上もれがあるか否かについて判断する。

三  被告らの主張第2項(二)の事実は当事者間に争いがない。そして成立に争いのない甲第五号証、第六号証の一ないし三、第七、第八号証、乙第二ないし第五号証、原告代表者尋問の結果および弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。

(一)  訴外下村は、昭和一〇年頃、金属製メジャーの製造販売を業とする訴外合名会社下村商店を設立し、同社の代表社員となったが、同社は昭和一九年頃、訴外下村から同訴外人の所有する本件土地上の建物を賃借し、また終戦後間もなく本件借地を賃借し、同地上に本件建物を建築して、事業を営んできた。

(二)  他方、訴外下村は昭和二四年頃、原告(当初の商号は株式会社下村商店であったが、その後現在のように商号を変更した。)を設立してその代表取締役となったが、原告は、訴外合名会社下村商店の事業の一部を引継ぎ、設立と同時に、右訴外会社より、本件建物を借り受け、訴外下村の承諾を得て本件土地上に在る本件建物以外の建物の賃借権を譲り受けた。本件建物はその後、昭和三七年頃原告が右訴外会社より買取り、その際訴外下村の承諾を得て本件借地権を譲受けた(なお本件借地については、権利金、敷金の類は授受されていない)。

(三)  然るに、やがて原告の事業規模が拡大し、本件借地付近が一方通行による交通規制のため交通が輻輳し、商品の搬送に支障を生ずるようになったことなどにより、同所での事業継続が困難となり、事業所、倉庫等を他へ移転することとなったが、営業政策上、代替地および代替建物は訴外下村において取得し、これを原告に賃貸することとした。そこで、訴外下村はその取得費用を捻出するため、本件土地およびその地上に在る本件建物を含む全ての建物を内外衣料に売却すべく、本人および原告の代表者として交渉した結果、内外衣料との間に、右土地建物を賃借権の付着しない状態で代金総額九二〇〇万円で売買する旨の合意が成立したが、本件建物の帳簿価額等を勘案して、右代金についての訴外下村と原告の分配額を八八〇〇万円と四〇〇万円にすることとし、結局昭和三八年一月一六日売主を訴外下村、所有権移転登記の日を昭和三九年三月一七日として、本件土地等を代金八八〇〇万円で売却し、昭和三九年三月一七日、売主を原告として本件建物を代金四〇〇万円で売却する契約を内外衣料と結び、その代金を受領した。

(四)  訴外下村は、右売却代金の一部を使用して、訴外城東機工株式会社の所有にかかる大阪市東成区神路町四丁目壱番地、同弐番地の土地を賃借し、同地上に事務所および倉庫(別紙物件目録(七))を建築して、これを権利金を収受することなく原告に賃貸した。

以上の認定の事実によると、(三)の売買に当り、原告は訴外下村との間で、本件借地および本件土地上に在る本件建物以外の建物についての賃貸借契約を合意解除ないし賃借権の放棄により終了させたものと認めるのが相当であり、これによって本件借地権は消滅したものというべきである。

四  被告らの主張第2項(一)の事実は当事者間に争いがない。そうすると、原告は本件借地権を消滅させた当時、同族会社(昭和四〇年法律三四号による改正前の法人税法七条の二)であったというべきである。

五  ところで、成立に争いのない乙第一号証および証人木口勝彦の証言によれば、本件借地は大阪市内の普通商業地域に存在し、同地域においては、借地権に経済的価値が認められ、地主が土地を第三者に売渡すに際し、借地人が買主に借地権を譲渡し、或いは借地権を消滅させて、買主が借地権の付着しない状態で土地の所有権を取得することになる場合には、借地人は右借地権処分の体償として、買主もしくは地主から、土地の更地としての取引価額の一部に相当する金額の支払を受けるのが通例であることが認められる。

そして、前記のとおり、内外衣料は本件土地および同地上建物一切を取得するため、総額九二〇〇万円を支出したのであるが、前掲甲第五号証、乙第一、第二、第四号証によると右建物はいずれも老朽化しており、内外衣料は取得後直ちにこれを取こわしたこと、本件土地は近傍類地の取引事例からみると坪当り三〇万円前後で取引されるのが正常であったことが認められ、これらの事実に、右総額を本件土地の面積で除すると坪当り三〇万三二八〇円になることおよび前記三の(三)の事実を考えあわせると、右価額は建物に経済的価値を認めず、専ら土地の価格を評価して定められたものと推認される。

以上の事実によると、本件土地の更地としての取引価格は九二〇〇万円であり、原告が建物売買代金名義で受領した四〇〇万円は、実質上、本件借地権を消滅させた代償であるとみることができる。

六  そこで、次に本件借地権消滅の代償として借地人が地主から受取る金額は一般に何程であるかを考察するに、前掲乙第一号証、証人木口勝彦の証言、鑑定の結果および前記認定の事実、殊に本件借地については権利金の授受がないこと、本件建物は木造の倉庫であり、用途が限られているうえ、昭和三九年三月当時既に建築後一五年以上経過しており、かなり老朽化していたこと、本件借地は付近の道路事情の悪化のため必ずしも倉庫としての立地条件の良い場所とはいえないこと、立退くに至った事情が、地主の一方的要請によるものではなく、又、借地人は地主から代替建物の提供を受けていること等の事情を考察すると、本件借地の更地としての取引価額の三〇パーセントをもって、正常な代償額とみるのが妥当である。なお、本件借地権が原告主張の如く独立性に欠けるものとは認め難く、また地主が借地人の第三者に対する債務の担保として右代替建物に根抵当権を設定したことは、その物上保証が本件借地権消滅の代償の趣旨でなされたと認められるような特段の事情がない以上、一般にその代償として借地人が地主から受取るであろう金額を判定するに当り、参酌すべきものとは解し難い。

そして、被告らの主張第2項(六)の事実は原告において明らかに争わないから、本件土地のうち、本件借地とその余の部分の価額の割合を一八六六万四二二二対三七六〇万六二二五として、前記九二〇〇万円を右割合により按分して本件借地の更地価額を算定すれば、三〇五一万五二七九円となり、従って、その借地権消滅の代償額は右金額の三〇パーセント、即ち九一五万四五八三円であると認められる。

七  そうすると、本件借地権を消滅させるについて、原告以外の他の株式会社ならば一般に右九一五万四五八三円を受領したはずであり、従ってこれに相応する法人税を負担することになるのであるから、原告が右金額の二分の一にも満たない四〇〇万円しか受領せず、残余を益金に計上しないことを容認するにおいては、原告の法人税の負担を不当に減少させる結果となることが明らかである。従って、その差額五一五万四五八三円も、本件事業年度の益金として所得金額中に計上しなければならないのである。(前記法人税法三〇条一項)

なお、借地権を処分し、代替建物に賃借権を取得した場合、借地権の処分による所得が法人税の課税対象となるのは、特段の規定のない以上、当然であり、また将来右建物を退去して立退料を得た場合の所得に対する課税においては、その立退料を得るために要した経費を問題にする必要があるとしても、借地権の処分による所得に対する課税においてはこれを考慮する必要はないから、原告の被告らの主張に対する認否第3項の主張は理由がない。

八  ところで、被告署長は右金額を一一〇八万四八三一円として本件更正処分を行なったのであるから、右七記載の金額を超える部分の更正処分は違法であり、従って、これに対応する部分の過少申告加算税の賦課処分も同じく違法であり、ともに取消しを免れない。

(被告国に対する請求について)

九 被告国に対する請求は、将来の給付を求める訴であると解されるところ、更正処分等の取消判決が確定すれば、それに対応する本税、過少申告加算税等は当然還付加算金とともに遅滞なく原告に還付されるのであり(国税通則法五六条一項、五八条)、現在原告が給付判決を得ておく必要も認められないから、訴えの利益がなく、不適法である。

(むすび)

一〇 よって、原告の被告署長に対する請求のうち、所得金額二三三六万三二八四円を超える更正処分の取消および右部分に対応する過少申告加算税の賦課処分の取消を求める部分は理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、被告国に対する訴えは、これを却下する。訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 増井和男 裁判官 若原正樹)

物件目録

(一) 大阪市南区安堂寺橋通壱丁目弐壱番

宅地  壱〇参・〇九坪(参四〇・七九平方米)

(二) 同所弐弐番

宅地  六壱・五弐坪(弐〇参・参七平方米)

(三) 同所弐参番

宅地  八〇・八七坪(弐六七・参四平方米)

(四) 同所弐四番ノ弐

宅地  参六・〇〇坪(壱壱九・〇壱平方米)

(五) 同所弐四番ノ参

宅地  弐壱・八七坪( 七弐・参〇平方米)

(六) 同所弐壱番地、弐四番地ノ弐、弐四番地ノ参

同町参参番

木造スレート葺平家建 倉庫

壱壱〇・弐五坪(参六四・四六平方米)

(七) 大阪市東成区神路町四丁目壱番地、弐番地

同町壱番の壱

鉄筋コンクリート造陸屋根参階建  事務所

壱階 五六・弐五坪(壱八五・九五平方米)

弐階 五六・〇九坪(壱八五・四弐平方米)

参階 五六・〇九坪(壱八五・四弐平方米)

附属建物

1 鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建倉庫

参参弐・七五坪(壱〇九九・七参平方米)

2 木造スレート葺平家建便所

〇・七壱坪(弐・参壱平方米)

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例